道路を減らして交通が改善することがある

道路を減らして交通が改善することがあるらしい

韓国のソウルでは2003年、6車線の幹線道路を取り壊して全長8kmの公園に作り変えるという工事が開始された。そんなにでかい道路をを無くしてしまったらさぞ交通の便が悪くなると思ってしまうが、工事が終わってみると周囲の交通は改善したらしい。1

また、2008年にはボストン・ニューヨーク・ロンドンの特定の道を閉鎖するという実験が行われた。すると不思議なことに、「ある道路を閉鎖することによって部分的に交通が改善する」という結果が得られたらしい。2

さて、一体どういうこと?

道路が増えると混雑が増す?

実はこの現象には「ブライスのパラドックス」という名前がついていて、ある程度は理論的に説明できる。

いま、A地点からD地点に2000台の車が移動している。A地点からD地点への経路はと所要時間は、下の図のようになっている。ただしXは、その道を通る車の台数。

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このとき、A→B→Dの経路を選ぶ車とA→C→Dの経路を選ぶ車はちょうど半分にわかれる。それが最速になるからだ。つまり、各車の所要時間は、40+(10+1000/100)=60分となる。

さて、この混雑状況を見た政府は、B-C間にこんなバイパスを設けることにした。8分で行き来できる超便利なバイパスだ。

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バイパスを使ったほうがAからDまではやくたどり着くことができそうだ。A→B→C→Dと行くと40+8+40=88分もかかってしまってさっきよりも遅いので、A→C→B→Dと行くのが良さそうだ。

バイパスを増設したことにより、2000台の車がすべてA→C→B→Dの経路を選ぶようになった。各車の所要時間は、(10+2000/100)+8+(10+2000/100)=30+8+30=68分となり…

あれ?おかしい。バイパスを増設する前より時間がかかっているじゃないか!

はやく進みたかっただけなのに

このパラドックスの興味深いところは大きく2つある。

まず、「良かれと思って作った道路が実は悪い影響を生み出している」という点。「交通の便を良くするための道路が逆に悪化させている」というのが、このパラドックスがパラドックスたる所以だ。

ドライバーから見ても、「はやくAからDに進みたかっただけ」なのに、なぜか遅くなっている。どうしてそうなるのだろう?

ポイントは「自分ひとりの行動が、周囲の人の行動に影響を及ぼしている」というところだ。具体的には「10+X/100分」の部分。全員が最短経路で行こうとして、結果として全員がお互いの足を引っ張ってしまっている。

もうひとつは、他の1999台がバイパスを使っているとき、「自分ひとりだけが使わない」という選択肢をとっても、自分は損をするだけということ。なぜなら、10+X/100分かかる道に1999台通っちゃってるから、前の経路で行っても前より遅いのだ。

バイパスができたあとでも、できる前と同じ行動を「全員が」選択すれば悪い方にはいかない。でも「自分ひとりだけがやってもダメじゃん」となるから損の沼にハマりやすい。

最初に紹介した事例のように、全体を俯瞰して「誰にとっても以前より良い」選択肢を適切に選ぶことができたらいいけれど、それはきっとなかなか難しい。

どうしたらうまく解決できるのだろう。まずはやっぱり、全体への配慮を持つことからだろうか。考えれば考えるほど難しい。

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