「頭ではわかってるけど身体がね...」という悩みは、案外もののはずみで解決する

トランスジェンダーのキョンちゃん

予備校にキョンちゃんという子がいた。その子はトランスジェンダーだった。

当時、性的マイノリティという概念はすでに社会に浸透していて、ぼくの周りでは「そういう差別をするのは超ダサい」という考えを持っている人のほうが多かったと思う。ぼくもそのひとりだった。

だけど、「頭でわかっている」ことと「身体がその通りに動く」ことは別問題だ。「珍しい」ジェンダーの人に出会うと一瞬フリーズしてしまい、心の中で「二度見」してしまうなんてことはよくあった。本当はそんなつもりではないのに。

キョンちゃんは予備校でまあまあ有名人だった。しかし、それはキョンちゃんがトランスジェンダーだからというわけではない。キョンちゃんが、すれ違う人ほぼ全員にとびきりの笑顔で手を振るからだ。「天真爛漫なキョンちゃん」として周りからは認知されていた。

キョンちゃんに初めて手を振られた日、僕は無性に嬉しくなって、人目をはばからず手を振り返していた。「珍しい」ジェンダーの人に、初めて頭で思っているとおり身体を動かすことができた瞬間だった。

身体の使い方がわかれば、上手くいく

ふとこんなことを思い出したのは、ブログの書き方をいつもと少し変えてみたときのことだった。

その日は一段と原稿が進まない日だった。朝から机に座っているのに、お昼の3時をなってもたったの3行しか書けていない。「俺やっぱブログ書く才能ないわ」と落胆していると、有名編集者がGoogleドキュメントのマイク機能を使って原稿を書いているという話が頭に降ってきた。ダメ元でもいいからやってみようと、原稿作成をタイピングから音声入力に切り替えてみる。

これが驚くほどうまくいった。それまで何を書こうか思いつかず困っていたのが嘘みたいに、口から「文章」が溢れ出してきた。

「書こう」とするとなにも出てこないのに、「話そう」とすると文章がどんどん出てくる。自分にはブログの才能がないのだとばかり思い込んでいたが、実際はアイデアの吐き出し方に問題があっただけのようだ。頭の中のアイデアを吐き出すとき、それを「書く」のが苦手で、「話す」のはそこそこできるらしい。

考えてみれば、普段の僕はアイデアの大半を「話す」ことで表現している。「書い」て自分のアイデアを表現するなんてことは、3ヶ月に1回課される大学のレポートくらいだ。頭では「書きたい」と思っていても、身体が「書くこと」に慣れていなかったから、いつまでもブログが書けなかったのだ。身体の使い方を変えただけでこんなに上手くいくものかと、かなり新鮮な気持ちになった。

僕は高邁な精神の持ち主なので、頭の中ではいつも素晴らしい理想を描いている。だけど凡庸な能力の持ち主でもあるので、頭の中で描く通りに身体を動かせることはそう多くない。こんなときはいつも、できない言い訳を探したり、自分のレベルの低さを責めてしまったりする。自分が嫌になることばっかりだ。

だけど案外、成功は遠くないのかもしれない。頭では描けているんだから、あとはやるだけだ。慣れてない身体の使い方をしようとしてるから少し身体がこわばっているだけ。ちょっとしたもののはずみで身体の使い方がわかれば、すぐに上手くいくようになるんじゃないだろうか。キョンちゃんに初めて手を振り返すことが出来たあのときのように。

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