大きな成果を出したければ、ハードワークするな

ハードワークへの憧れ

中高のサッカー部時代、監督からの叱咤激励の中でも一番苦手だったのが「ハードワークをしろ」でした。

これは「より長い時間、より強い強度を保て」ということですが、「できるならとうにやっている」というのが正直なところです。「体がついていかない」という話なのに「気持ちの強さが足りない」と責められている感じがするのが気に入りませんでした。

昔から「ハードワーク」とやらが苦手です。自分の中には強めの「ストッパー」が存在していて、「よし、ここからがハードワークだな」というところで必ず自分を引き止めてしまいます。「ちょっとだけ」と思って始めた休憩時間がいつのまにかおやすみの時間まで続いてしまいます。これはデスクワークをしていても同じです。

気持ちはたしかにハードワークを望んでいるのですが、なかなか続きません。たまにできることもありますが、そのあと必ず疲弊していつもより多く休みをとってしまいます。これでは結局元通りです。


一方、世の中で「一廉の人物」と呼ばれる人は大抵「ハードワークの歴史」を持っています。

時価総額6,000億円超え企業Cyber Agentの藤田晋社長は創業当初、週に110時間働いていたそうです。研究者・実業家・アーティスト・タレントとしてマルチに活躍する落合陽一氏は、今でも1日に3~4時間程度しか寝ていないのだとか。最近なにかと話題であるイェール大学助教授の成田悠輔氏も、「20代は1日17時間くらい研究していた」と話しています。

正直、マネできる気がしません。他にも「成功者のハードワーク武勇伝」はたくさん存在しますが、この手の話を聞く度に、彼らの鉄人具合に驚くとともに「ぬるま湯」から出られない己の弱さを反省し、「ああ、自分は大した人間にはなれないのだ」と軽く絶望していました。

ところがある日、そんな自分に一筋の光が差しました。

次の引用はとある本で出会った、音楽アカデミーのバイオリニストたちのパフォーマンスに関する研究についての文章です。対象者をスキルの順に「プロの独創者として活躍が見込まれる」「オーケストラの一員として演奏ができる」「演奏家ではなく音楽教師を目指す」の3グループに分け、各グループの普段の生活を詳細に観察したそうです。

この研究によると、「優れた演奏家は普通よりしっかり休息と回復の時間を取っている」といいます。

毎日平均3.5時間練習する上位2グループは、一度に長くて90分までの練習を3回、大部分は午前中にこなしていた。最も休息が取れていて、気を散らさずに集中できる時間帯だ。そして、練習の合間には回復のための休憩をとっていた。一番下のグループは毎日平均1.4時間練習するが、スケジュールは決まっておらず、午後に練習することもよくあった。

(中略)

上位2グループの学生は、1日に平均8.6時間の睡眠をとっていた。音楽教師を目指すグループの平均7.8時間より、1時間近く長い。

(中略)

また、上位2グループは3番目のグループよりも昼寝をする時間が長かった。彼らが週に3時間近く昼寝をするのに対し、3番目のグループは週に1時間未満だった。(出典

「休息が大事」という話はよく耳にしますし、ぬるい自分はそういう話が大好きです。睡眠時間をコントロールしてパフォーマンスを測定する実験もよく見ます。しかし、生活実態の観察研究でこれほど明確に「しっかり休んだほうがパフォーマンスが高い」という話は珍しいと思いました。

目を引く事実に「お」と思いながらも、疑り深い私は「筆者にとって都合の良い研究結果を持ち出してきただけかも」と、他にもこういったエピソードがないか調べてみました。すると、意外にもリアリティのある話がぼろぼろ出てくるのです。特に印象に残ったのは以下の3つでした。

  • 村上春樹は1日に5~6時間くらいしか執筆しない。午前中に創作活動を終わらせて、午後はジョギングや読書を楽しんで活力を蓄えている。
  • アインシュタインがあの特殊相対性理論の論文を書いたのは特許庁の職員として働きながらだった。1日に何時間も研究活動に勤しむのではなく、公務員の仕事の傍らで少しずつ論文を書き進めていた。
  • 世界で初めて南極点に到達したアムンゼンは、どんなに天気のいい日でも1日15マイルまでしか進まないと決めていた。同時期に南極大陸に挑戦したスコットという探検家は1日にできるだけ進む方針を取ったが、彼の隊は全滅した。アムンゼン隊は全員帰還した。

まるで「大きな成果を出したければ、ハードワークするな」と言っているようなエピソードたちです。「成功者といえばハードワーク」と考えていた自分にとって、目からウロコの事実でした。

ただ、これは決して「手を抜け」と言っているわけではありません。先程の引用の中でも、上位グループの練習量は下位グループよりも多かった。ポイントは「1日の活動上限を決めて休む時間を必ず取れ」ということです。

優秀なバイオリニストは直観的に、一度に90分だけ休み無く集中して練習し、1日の練習時間を4時間にまでにすることが最も優れた効果を引き出すと分かっているのだろう。彼らは途中で休息の時間を取り、エネルギーを補給するのが不可欠だということにも気がついている。スポーツでもチェスでも、研究者たちの多くが、その道の熟達者は”1日の訓練時間を長くても4時間までにしている”と結論してきた。(出典

ハードワークはできない自分にも、1日の活動量の上限を決めてきちんとした休息をとることならできます。 

またこの本によると、「強い集中をする」というのが重要なポイントのようです。

私達の目標は、高パフォーマンスを持続させるために欠かせない3つの原則をクライアントに示すことである。

 第一に、私達は定期的に今の限界を超える努力を意識的に自分に課さないかぎり、生活のどの面でも成長や改善は期待できない。   第二に、短時間の集中的努力とそれに続く休息と回復のほうが、長時間控えめな努力を続けるよりも効率的で、満足度が高く、より生産性が上がる。

第三に、イソップ童話のウサギとカメの物語は間違っている。最後に勝つのはゆっくりと堅実な歩みのカメではない。エネルギーを一気に爆発させてその後でしっかり回復の時間をとるウサギのほうである。(出典

のちに別の本で知ったのですが、パフォーマンスの優れたバイオリニストがしていたような集中力の高い練習のことを、心理学者のアンダース・エリクソンが「限界的練習」と名付けているそうです。

たとえば、ギターを手に取り、何も考えずに即興演奏をする。これは限界的練習ではない。一方、上手く引けない特定のフレーズにあらゆる注意を集中させ、どこでつまづくのかがわかったら、意識的に反復練習を繰り返す。これが限界的練習である。

限界的練習で特に重要なのは、終わりにするタイミングを見極めることだ。このような練習は、高いレベルのエネルギーと集中力を必要とする。(出典

確実に十分な休息をとって、メリハリをつけて仕事に取り組む。小学校で習うようなことですが、意外にできてないなと思いました。

実践-自分をコントロールしている感覚

この本を読んでから、私は「とにかくハードワークしなければいけない」という考えを改め、強い集中と休憩を繰り返す生活に切り替えました。具体的には、以下のような1日を過ごしています。

  • もともと朝型なので、朝6時に起きて軽い散歩をし、シャワーを浴びる。8時に始業する。
  • 小学校のように、50分ごとに10分の休憩を組み込んで1日の時間割を組む。休憩時間には短い仮眠・軽い食事・ストレッチなどをする。
  • 50+10分セット2回分を1ブロックとし、1日の活動は4ブロックまでとする
  • 1ブロック分の強い集中をしたら、次の60分は昼寝・散歩・掃除・料理・ストレッチなどをして集中力の回復を図る
  • 21時には消灯して、物理的にそれ以上PCやスマホを見れないようにする。22時くらいにベッドに入るまではストレッチしながら1日を振り返ったり次の日の計画を立てたりする。

当たり前ですが、しっかり休みをとると疲労感がなく、毎日の気分が軽くなりました。オーバーワーク・オーバー休暇がないので毎日一定のリズムで過ごすことができています。1日の進捗が大きくないことを理解しているので、より長期的な目線で物事を考えるようになりました。結果として、出せる成果もだんだん大きくなっているように思います。

「休むのも大事だけど結局ハードワークしなきゃなんだよね」と考えていたころは、いつも「もっとやらなきゃ」と、自分に対する欠乏感がありました。それに「早く成果を出さなきゃいけない」と思いこんでいました。

割り切って活動の上限を決め、意識的に休む時間を増やし、「強い集中」に取り組んでいる今は、一日の終わりに「やるべきことをやりきった」という充足感を感じられるようになりました。「一歩ずつ地に足をつけた努力を続けよう」「時間はかかってもやると決めたことを着実にやりきろう」という、落ち着いた考え方に変わり始めています。下手にハードワークをしようとあくせくしていたころに比べて、自分をコントロールできている感覚を持てている気がして、とても嬉しいです。

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