良きパートナーになりたければ、ありのままの自分を見せる

無理をして別れた恋愛の話

高2から大学2年の春まで付き合っていた人(以下、元カノ)がいた。それはそれは充実した日々だった。元カノの日課はインスタグラムでいい感じの店を見つけること。週末になると、見つけた店へ僕を連れて行ってくれるのだった。映えな店で冴えない格好をしていると悪目立ちするし、なにより好きな人とのデートだったので、僕は張り切っておしゃれをするのだった。そこには「最高の彼氏になりたい自分」が確かにいた。

そんな充実した生活を送っていたものの、同時に、僕は心のどこかで不満が溜まっていくのを感じていた。「毎回、おんなじようなことしてんな」「こんなに遊んでいていいんだろうか」みたいなことを考えるようになった。ちょうどその頃、高校時代の親友がエンジニアとしてインターンを2社ほど経験するなど、グングン成長していく様を目の当たりにしていた。「オレもこうしちゃいられない、なにか始めなくては」と焦燥感に襲われた。「親友に負けたくない自分」は、彼女とのデートにどんどん価値を見いだせなくなった。

そして、だんだんと元カノに嘘をついているような罪悪感を憶えるようになった。「今週末はこの店へ食べに行こうよ〜」という元カノに対して、「いいね、おいしそう!」と笑顔で返すたびに、気が重くなるのだった。

僕たちは大切な人を悲しませたくない。大切な人から嫌われるのは怖い。だから、大切な人には都合のいい「自分」だけを見せ、都合の悪い「自分」は隠してしまいがちだ。僕の場合、美味しそうな天丼と彼女を前に、心の中では「デートなんかしてる場合じゃねぇ」と思っていても、「天丼とお前が好物やねん、ありがとう!」とか言ってゆっくり味わっていた。

最終的に、僕は隠している方の「自分」を抑えきれなくなり、約4年の交際にピリオドを打った。

怖いけど、ありのままの自分を見せる。

愛妻家ならぬ、愛彼女家で有名な友人にこの話をしたところ、「大切な人には、日頃からいろんな『本当の自分』を見せるのが大事やと思う」というアドバイスをもらった。たしかに「彼/彼女には、ありのままの自分を見せています!」みたいな話はよく耳にする。けど、「それは怖くてできないよ」というのが正直な気持ちだ。

その友人は、僕とは真逆で、自分の彼女に対してかなりオープン。なんでも打ち明けるらしい。あるとき、友人は「就職せずに、やっぱ起業したいな」と悩んだことがあった。元々、友人は一流企業から内定をもらっており、そこに就職すると公言していたのだ。そんな中で、突然の「起業するかも」は、彼女にとってみれば将来の不安を煽るものだろう。ちょっとした裏切りと捉えられてもおかしくはない。友人は、そうした彼女のマイナスな反応をぜんぶ予想した上で、彼女に対して「おれ就職するか起業するか迷ってる」とどストレートに相談したらしい。

僕たちはいくつもの「本当の自分」を抱えているのだと思う。ときに、互いに相反する願いを持った「自分」を抱えることもある。友人の場合、「就職して彼女と安定した暮らしを送りたい自分」と「どうなるかわからんけど起業に挑戦してみたい自分」という、2つの「本当の自分」がいた。僕だったら、後者の「自分」は隠蔽してしまうだろう。しかし、友人は正直に「起業したい」と相談した。きっと、都合のいい「自分」だけを見せて嘘だらけの関係になってしまうよりは、多少嫌われてもちゃんと「本当の自分」を見せるほうが健全だ、と考えていたのだろう。

友人曰く、「そもそも、他人に自分の全てを受け入れてもらうことなど不可能であって、ありのままの自分の一部を好きになってもらえればそれでいい」らしい。

友人の話には続きがある。友人が「おれ、起業するかも」と相談したとき、彼女は「そんな人だと思っていた」とサラッと返し、今後どうするか一緒に考えてくれたそうだ。

僕と元カノとの話にも続きがある。僕からの別れを告げるLINEに対して、元カノは「あなたが自分のやりたいことに集中したがっていることは前々から知っていたよ」と返してきたのだ。

隠しているつもりでも、案外、都合の悪い「自分」は相手からお見通しなのかもしれない。わざわざ、大切な人に都合の悪い「本当の自分」を紹介しなくたっていいということだ。

だが、それは「本当の自分」を見せることが無意味だということではない。「本当の自分」の集合としての、ありのままの自分を自覚的にさらけ出すことは、自分が受け入れられているという安心感をもたらす。そして、それは相手に偽りなき誠実さとして映る。だからこそ、友人とその彼女は、お互いがどんなにマズいことを言ったって、どんなにマズい一面を見せたって、2人の問題として一緒に考えることができるのだろう。本当に良きパートナー同士でいられるのだろう。

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